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乳がん

乳がん手術後の乳房再建

目次

  1. 手術で切除した乳房の再建
  2. 再建手術の時期と回数は?
  3. 乳房インプラントによる再建術
  4. 自家組織による再建術
  5. 乳輪・乳頭は再建できるか?
    1. 乳頭の再建
    2. 乳輪の再建


手術で切除した乳房の再建

手術によって乳房を切除しても、再建することができます。切除した後、左右のバランスが悪くなって肩がこる、補正用のパッドを装着するのが煩わしいなどの悩みが起きるのは珍しいことではありません。

乳房の再建は、そんなストレス・悩みの軽減や、患者さんの生活の質(QOL=Quality of Life)向上の助けになるでしょう。

再建することで再発が増えたり、再発の診断に影響が出たりすることはないといわれています。

乳がんの手術は乳腺外科医が行いますが、乳房再建は形成外科医の担当分野です。乳房切除術が決まった患者さんが乳房再建を希望する時は、乳腺外科医と形成外科医、患者さんでよく相談することが大切です。

乳房再建は、行うタイミングや方法によっていくつかの種類があります。

乳がんの切除手術と同時に行うのが1次再建、切除手術後にある程度の期間を置いてから行うのが2次再建です。

再建の方法は大きく分けて2つ。

1つはおなかや背中など自分のからだの組織を移植する自家組織によるもの、もう1つはインプラント(人工乳房)を使うものです。


それぞれについてもう少し詳しく見ていきましょう。


再建手術の時期と回数は?

1次再建は、乳がんの手術と同時に再建を行います。患者さんは乳房を切除した状態を見ることがないので、喪失感をあまり感じず、手術の回数も少なくてすみます。経済的にも2次再建より負担が少ないです。

2次再建は、乳がんの手術後に一定期間をあけてから再建を行うので、再建方法や時期について検討する時間が十分取れます。また、ひとまずがんの治療に専念することができます。

時期だけでなく、回数による違いもあります。

1期再建は1回の手術で再建が完了します。2期再建は1回目の手術で拡張器(エキスパンダー)を挿入して皮膚を伸ばした後、2回目の手術で乳房を再建します。

このように「1次1期(同時再建ともいう)」「1次2期」「2次1期」「2期2次」の4つの組み合わせがありますが、どれを行うかは患者さんの希望と体調、治療の内容、手術をする病院の状況などによって決まります。再建は時間が経ってからでも可能なので、同時に行えない場合は、まずがんの治療を優先させましょう。


乳房インプラントによる再建術

シリコン製の人工乳房(インプラント)を用いる方法で、まず皮膚を伸ばすために筋肉の下にエキスバンダーと呼ばれる袋を入れ、生理食塩水を少しずつ入れてふくらませます。6〜12ヶ月後にエキスパンダーを取り出し、代わりに人工乳房(インプラント)を入れます。人工乳房(インプラント)はある程度形が決まっているため、左右が完全に対照にはなりづらく、乳房が下垂している場合もバランスが悪くなります。また、エキスパンダーには生理食塩水注入の目印に磁石が使われているので、装着中はMRI検査を受けることができません。

○インプラントによる再建のメリット
・胸以外を切らないのでからだへの負担が少ない
・手術や入院期間が短い

×インプラントによる再建のデメリット
・感染のリスクがある
・露出・破損のリスクがある
・インプラントに対する免疫反応で周辺に薄い膜ができて硬く締まる被膜拘縮が起こる場合がある
・まれにリンパ腫(※1)を起こすことがある

※1:まれな合併症として、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(Breast Implant Associated-Anaplastic Large Cell Lymphoma (BIA-ALCL))という疾患があります。主に表面の性状がザラザラなインプラントを使用した症例で発生します。


自家組織による再建術

患者さんのからだの組織を使って乳房を再建します。

おなかの組織を使う「腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)」「穿通枝皮弁法(せんつうしひべんほう)」、背中の組織を使う「広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう)」が主な方法です。

また、以前おなかの手術を受けた人や、妊娠・出産の予定がある人は、おなかの組織を使う方法が適さないことがあります。

○自家組織による再建のメリット
・自然な形態、やわらかさがある乳房になる
・異物反応が起こらない
・インプラントに比べると感染に強く、長期的に安定した乳房が再建できる
・露出・破損などのリスクが少ない

×自家組織による再建のデメリット
・組織を採取するからだの部分に傷あとが残り、筋力が低下することがある
・おなかから組織を採取した場合、腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニア(いわゆる脱腸)や、下腹部がふくらむ腹壁弛緩(ふくへきしかん)が起こる場合があります。
・手術時間・入院期間が長く、からだへの負担が大きい


乳輪・乳頭は再建できるか?

乳房再建はふくらみを取り戻すためのものなので、乳輪や乳頭がない場合は別に乳輪・乳頭再建を行います。乳輪・乳頭を残したままがん組織を取り除く「乳頭温存乳房切除術」もありますが、実施している医療機関は少ないのが現状です。


乳輪・乳頭の再建が行えるのは、再建した乳房の状態が落ち着いてから(6ヶ月程度経過してから)になります。

乳頭の再建

手術をしていない側の乳輪の一部を移植する方法と、再建した乳房の皮膚に切り込みを入れ、立体的に縫い合わせてふくらみを再現する方法があります。

乳輪の再建

手術していない側の乳輪の一部や、乳輪の色に近い色の皮膚(鼠径部など)を移植する方法と、医療用の刺青で色をつける方法があります。医療用刺青は徐々に色が薄くなるので再着色が必要になる場合があります。

 


【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」 
https://ganjoho.jp/public/index.html 
「国立がん研究センターの乳がんの本」(小学館) 
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版」(日本乳癌学会編)
 

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監修者
片岡明美
医師・日本がん治療認定医機構がん治療認定医 公益財団法人がん研究会有明病院乳腺センター乳腺外科医長兼トータルケアセンター患者・家族支援部サバイバーシップ支援室長

1994年、佐賀医科大学医学部(現・佐賀大学医学部)卒業。九州大学病院第二外科、国立病院機構九州がんセンター乳腺科、ブレストサージャリークリニックなどを経て2015年よりがん研究会有明病院乳腺センター勤務。2021年より現職。専門は乳がんの診断と治療全般、とくに若年性乳がん患者のサバイバーシップケア。 分担執筆に『乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン』(2021年版 金原出版)