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乳がん

乳がんの転移・再発時の治療と予防

目次

  1. 乳がんの転移・再発とは
  2. 「局所再発」と「遠隔再発」それぞれの治療法
  3. 転移が起こりやすい場所と検査・治療
  4. 乳がんからの転移がわかった場合の治療法
    1. 骨への転移の治療法
    2. 脳への転移の治療法
    3. 肺への転移の治療法
  5. 乳がんの再発予防について
    1. 肥満を避ける
    2. アルコール摂取は控えめに
    3. 禁煙する
    4. 適度な運動をする


乳がんの転移・再発とは

乳がんが発症したごく初めの頃から、微量ながん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って全身に移動し、からだのどこかに潜んでいることがあります。それが成長し、乳房とは離れた別の臓器で発症することを「転移」や「遠隔転移」といいます。

治療をしてがんがなくなったにもかかわらず、治療をすり抜けて潜んでいたごく小さながんが大きくなり、再び発症してしまうのが「再発」です。

再発は手術後2〜3年以内に起こることが多いのですが、乳がんのタイプによっては進行が遅いものがあるので、5年、10年以上経ってから再発することもないわけではありません。他のがんでは5年再発がなければ完治の目安になりますが、乳がんの場合は、5年以降も経過観察を続けることが必要になってきます。


「局所再発」と「遠隔再発」それぞれの治療法

乳房部分切除術を行った後の乳房や、乳房を全摘出した後、周辺の皮膚やリンパ節で再発が起こることを「局所再発」といいます。乳房内で再発した場合は、がんの広がり具合をみた上で乳房を全摘出する手術を行います。乳房全切除手術後に胸の皮膚やリンパ節で再発した場合、切除できるものであれば切除します。どちらも手術後に必要に応じて放射線療法や薬物療法を行います。

乳房から離れた別の臓器などで再発が見つかった再発の場合は、がんの進行を抑えたり症状を和らげたりできるよう、患者さんの乳がんのタイプに合わせた、からだ全体に効果がある薬物療法を行います。

再発の治療に用いられる薬には多くの種類があるので、1つの治療法に効果があって副作用などの問題がなければそれを続け、その治療法の効果がなくなってきたら別の治療法に変更するという方法が採られます。


転移が起こりやすい場所と検査・治療

乳がんで遠隔転移が起こることが多いのが、骨や皮膚、リンパ節、肺、肝臓、脳などです。血液検査、骨シンチグラフィ、骨X線(骨の異常を撮影できるX線)、MRI、CT、X線、超音波(エコー)、PETなど、臓器や部位によって内容は異なりますが、病状によって必要な検査を行います。

これらの検査について詳しくは「乳がんに関する様々な検査」を参照してください。

遠隔転移が見つかった場合は、見つかった臓器以外にも検査ではわからないほどの小さながん細胞が潜んでいる可能性があるため、手術で切除するよりも、薬物療法を中心とした治療が基本となります。

乳がんが転移した場合、肺など他の臓器で発症しても肺がんではなく、乳がんが転移したものなので、乳がんのための治療が行われます。治療法はがん細胞の特性(ホルモン受容体の有無、HER2の状況など)、患者さんのからだの状態、患者さんの希望などを考慮して決めていきます。

治療法やがん細胞の特性については「乳がんの病期(ステージ)と手術・放射線治療・薬物療法」を参照してください。


乳がんからの転移がわかった場合の治療法

骨への転移の治療法

骨に転移した場合、強い痛みがある時は、鎮痛薬を用いたり、放射線治療で痛みを和らげたりします。骨折する危険性がある場合は、整形外科的な手術を行って骨折を予防することもあります。また骨折の発生頻度を減らしたり痛みを予防したりするための薬(※1)が用いられることもあります。


脳への転移の治療法

脳に転移した場合、主に転移した病巣を小さくしたり、症状を緩和したりするために行われるのが放射線療法です。脳全体に放射線を当てる全脳照射と、病巣のみに放射線を当てる定位放射線照射があります。病巣が1つで手術しやすい場所にあり、他の臓器に転移がなく、患者さんのからだの状態が良い場合は、外科手術で取り除くこともあります。また、症状の改善を目的として薬物(※2)が用いられることもあります。


肺への転移の治療法

肺に転移した場合に知っておいてほしいのは、乳がんが転移したのか、肺に新しくできた肺がんなのかの区別がつかない場合があるということです。このため、診断に必要な手術を行うことがあります。新しくできたのが肺がんではなく、乳がんの転移だとわかった場合は、薬物治療が治療の基本となります。

※1:ゾレドロン酸やデノスマブなど
※2:ステロイドなど


乳がんの再発予防について

食生活や生活習慣に関して、こうすれば予防になるとわかっていることは現状ではほとんどありませんが、比較的信頼性の高いものもいくつかあります。

肥満を避ける

肥満の患者さんの再発リスクはそうでない人に比べると高いことが示されています。また乳がんと診断された後に体重が5kg以上増加することもリスクを高めるといわれています。適度なカロリー摂取と適度な運動で肥満を避けることが勧められています。

アルコール摂取は控えめに

アルコール摂取による再発リスクは少ないのですが、乳がん以外のがんの発症率や、発症していない方の乳房へのリスクが高まりますので、飲酒は控えめにしましょう。

禁煙する

喫煙は発症リスクや死亡リスクを高めます。健康の面からも禁煙をお勧めします。

適度な運動をする

運動を行っている女性は、乳がんの再発リスクや死亡リスクが低くなることがわかっています。無理のない範囲で、軽い運動(少し汗ばむくらいの運動を週に1時間以上)を定期的に行いましょう。

 

【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」 
https://ganjoho.jp/public/index.html 
「国立がん研究センターの乳がんの本」(小学館) 
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版」(日本乳癌学会編)
 

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監修者
片岡明美
医師・日本がん治療認定医機構がん治療認定医 公益財団法人がん研究会有明病院乳腺センター乳腺外科医長兼トータルケアセンター患者・家族支援部サバイバーシップ支援室長

1994年、佐賀医科大学医学部(現・佐賀大学医学部)卒業。九州大学病院第二外科、国立病院機構九州がんセンター乳腺科、ブレストサージャリークリニックなどを経て2015年よりがん研究会有明病院乳腺センター勤務。2021年より現職。専門は乳がんの診断と治療全般、とくに若年性乳がん患者のサバイバーシップケア。 分担執筆に『乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン』(2021年版 金原出版)