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がんについて知る

乳がん

乳がんの病期(ステージ)と手術・放射線治療・薬物療法

目次

  1. 乳がんの病期(ステージ)について知る
  2. 乳がんの治療方針の検討方法
    1. 0期
    2. I〜IIIA期
    3. III B、III C期
    4. IV期
  3. 乳がんの手術方法と合併症
    1. 乳房部分切除術(乳房温存手術)
    2. 乳房全切除術
    3. 腋窩リンパ節郭清(かくせい)
    4. 手術後の合併症
  4. 乳がんでの放射線治療の目的
  5. 薬物療法の種類と薬の働き
    1.  
    2. ホルモン受容体陽性乳がん
    3. HER2陽性乳がん
    4. ホルモン受容体陰性・HER2陰性乳がん(トリプルネガティブ乳がん)
    5. ホルモン療法薬
    6. 分子標的薬
    7. 細胞障害性抗がん薬

腋窩リンパ節
乳がんの病期(ステージ)について知る


乳がんの病期は、しこりがどれくらいの大きさか、乳房の中でがんがどれくらい広がっているか、リンパ節に転移しているか、乳房から離れた臓器に転移しているかなどによって判断されます(表1)。乳腺組織の中にとどまっている「非浸潤(ひしんじゅん)がん」は「0期」に分類され、乳腺組織の外に広がった「浸潤(しんじゅん)がん」は「I期」から「Ⅳ期」の4段階にさらに細かく分類されます。

乳がんの病期(TNM分類)

表1 乳がんの病期(TNM分類)
 
※出典:日本乳癌学会編,「臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版」金原出版,2018年   をもとに作成



乳がんの治療方針の検討方法


乳がんであることがわかったら、病期のほか、がんの性質、持病の有無や年齢、患者さんの希望も考慮した上で、患者さんに合った最良の治療方針を検討します。治療方針を決めるにあたり、基準となるのが次のような病期ごとの標準治療です。


0期

がんの範囲が小さい場合は乳房部分切除術(乳房温存手術とも呼びます)、がんが広い範囲におよぶ場合は乳房全切除術を行います。乳房部分切除の場合は術後に放射線治療を行います。ほとんどの場合は術後の薬物療法は必要ありませんが、がんでない方の乳房での再発を予防するためにホルモン療法を行うこともあります。

I〜IIIA期

がんが比較的小さい場合は乳房部分切除術と術後の放射線治療を行います。がんが比較的大きい場合は乳房全切除術を行いますが、術前に薬物療法によってがんが小さくなれば乳房部分切除手術が可能になることもあります。乳房全切除術の場合でも術後に放射線治療を行うことがあります。また、手術前にリンパ節への転移が認められる場合はリンパ節を切除する手術(腋窩(えきか)リンパ節郭清)を行います。さらに、手術によって切除した組織を病理学的に調べ、必要と判断された場合は術後に薬物療法を行うこともあります。

III B、III C期

主に薬物療法を行います。薬物療法の後にがんやリンパ節の腫れが小さくなった場合には、手術や放射線治療を追加することがあります。

IV期

薬物による全身治療を行います。転移の状況によっては放射線治療や手術を追加することがあります。



乳がんの手術方法と合併症

乳がんの標準治療は、乳房から離れた臓器への転移が明らかな場合を除き、がんを切除する手術が中心となります。事前に主治医とよく相談して、患者さんの希望をできるだけ伝えることで、納得できる手術が受けられるでしょう。



乳房部分切除術(乳房温存手術)

がん細胞とその周辺1〜2cmの組織を切除する手術で、がんを確実に取り除くだけでなく、患者さんが美容的にも満足できる乳房を残すことを大きな目的としています。残されたほうの乳房でがんが再発するのを防ぐため、通常は術後に放射線治療を行います。がんが大きい場合は、先に薬物療法でがんを小さくしてから手術を行うこともあります。切除した組織を詳しく調べ、がんが確実に切除できたかどうかを確認します。切除した断端までがん細胞が認められた場合は、追加切除や乳房全切除術が必要になることがあります。

乳房部分切除術を受けられる条件は明確ではありませんが、がんの広がり方や病期、がんの位置や乳房の大きさなどによって可能かどうか判断されます。患者さん本人が乳房を残すことを希望しているかどうかも大切なポイントです。最近は技術の進歩によって、切除の範囲をできるだけ狭くし、傷痕が目立たないように手術することもできるようになりました。また、乳房のどこに切開線を入れるか、手術後の乳房の凹みや変形をどう修正するかなど、執刀医と相談することも可能となってきました。



乳房全切除術

がんのある側の乳房をすべて切除する手術で、がんが広範囲に及んでいる場合や、複数のがんが離れた場所にある「多発性」の場合に行います。切除した後は乳房のふくらみはなくなり、乳房の大きさによっては術後に重さの左右差のために肩こりや脊椎側湾症が起こることがありますが、最近は重さの左右差を補正するための下着などが数多く市販されています。通常は皮膚も一緒に切除しますが、術後の乳房再建によって自然な形の乳房のふくらみを取り戻すために、皮膚を残して乳腺組織だけを切除する「皮膚温存乳房全切除術」という方法が選択されることもあります。
 


腋窩リンパ節郭清(かくせい)

乳がんが転移する頻度が高い腋窩リンパ節(わきの下のリンパ節)を切除する手術のことです。腋窩リンパ節はわきの下の脂肪の中にあるため、確実に取り除けるように周囲の脂肪組織も含めて切除します。手術前の画像診断で腋窩リンパ節に転移していると診断されたときに行われ、切除範囲は転移の状況によって決められます。

ここで「センチネルリンパ節」について説明しておきましょう。
リンパ管からがん細胞が最初にたどり着く腋窩リンパ節のことをセンチネルリンパ節といいます。手術前に腋窩リンパ節への転移がないと診断された場合や、はっきりとしなかった場合は、手術の途中でこのセンチネルリンパ節を採取して転移がないかどうかを調べる検査(センチネルリンパ節生検)を行います。その結果、転移していた場合は、センチネルリンパ節以外の腋窩リンパ節郭清を行います。

乳がんの細胞は転移リンパ節を拠点にして全身に転移するので、転移リンパ節を取り除くことが腋窩リンパ節郭清の目的ですが、もうひとつ、転移個数を調べるという目的もあります。転移個数が多いほど再発リスクが高まるといわれているので、術後の治療方針を決めるためにも、転移個数を調べる必要があるのです。


手術後の合併症

乳がんの手術で全乳房切除や腋窩リンパ節郭清を行うと、腕や肩が上がりにくい、しびれる、リンパ浮腫(腕や手などにリンパ液がたまってむくむ)といった合併症が起こることがあります。そのため、手術後にリンパの流れをよくするためのマッサージやリハビリを行います。適度な運動と太らないようにすることは症状の軽減に有用です。



乳がんでの放射線治療の目的

高エネルギーのX線を照射することで、がん細胞の中の遺伝子にダメージを与え、がんを死滅させたり増殖を止めたりする治療法です。乳がんでは乳房部分切除術後に再発を防ぐために行われることが多く、手術では取りきれなかった目に見えないがん細胞を死滅させます。乳房全切除術の場合も、リンパ節などからの再発リスクがある場合に放射線治療が行われることがあります。


治療で照射する総線量の目安は決まっていて、正常な細胞への影響をできるだけ少なくするために、少しずつ分割して照射します。1日1回、週5回、4〜6週にわたって照射するのが一般的です。1回の照射時間は1〜3分程度なので、通常の日常生活を続けながら通院治療できます。

放射線治療の副作用は比較的軽度といわれていますが、治療期間中に倦怠感を感じる患者さんもいるようです。治療を開始して2〜4週間後くらいから照射部分の皮膚が赤く日焼けしたような状態になったり、かゆくなったり、ひりひりしたりすることがあります。さらに、皮膚の表面がむけてしまったり、水ぶくれができたりすることもありますが、ほとんどの場合は治療終了後2週間くらいで治ります。皮膚症状が気になる人は主治医に相談して薬を処方してもらいましょう。また、乳房部分切除術の数カ月後に乳房が少し縮んで小さくなることがあるほか、まれに肺炎が起こることもあります。


薬物療法の種類と薬の働き

薬物療法は主に再発リスクを下げたり、がんを小さくしたりする目的で行われます。乳がんの薬物療法では、病期だけでなく「サブタイプ分類」を参考に、どの薬物が適しているかを検討します。サブタイプ分類とは乳がんの細胞の特徴による分類のことで、女性ホルモンによる影響を受けやすいかどうか、がん細胞の増殖を助ける特定のタンパク質を持っているかどうかを検査で調べ、大きく次の3タイプに分類するものです。

 

ホルモン受容体陽性乳がん

女性ホルモンの影響を受けて増殖する性質を持つ乳がんのこと。このタイプの場合はホルモン療法薬を使って治療します。このうち、がんの増殖スピードが速いタイプの場合はホルモン療法薬と細胞障害性抗がん薬を組み合わせて使います。


HER2陽性乳がん

HER2(ハーツー)という、がん細胞の増殖を助けるタンパク質を持っている乳がんのこと。このタイプの場合はこのタンパク質に作用してがん細胞の増殖を抑える分子標的薬と細胞障害性抗がん剤を組み合わせて治療します。


ホルモン受容体陰性・HER2陰性乳がん(トリプルネガティブ乳がん)

ホルモン受容体によって増殖せず、HER2タンパク質も持っていない乳がんで、細胞障害性抗がん薬を使って治療します。

薬物療法を手術前・手術後のどちらに行うかは、病期とサブタイプ、リンパ節への転移の状況、がんの大きさなどをもとに検討します。


手術前に行うメリットは、腫瘍が大きく乳房部分切除術ができない場合に腫瘍を小さくして部分切除ができる可能性が出てくることや、切除範囲を小さくして美容性の高い手術ができる可能性が出てくることです。手術前の薬物療法の効果をみて、効果が得られなかった場合には手術後にさらに別の薬物治療を追加して再発リスクを下げることができます。その際、薬物投与前の乳癌の状態をきちんと生検検体で評価し、画像検査で記録しておくことは手術後の治療法の選択のために大変重要です。

それでは次に、乳がんの治療に使われる3種類の薬剤が、それぞれどのような働きを持つのかを見ていきましょう。


ホルモン療法薬

女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を減らしたり、乳がん細胞にあるホルモン受容体(※1)と女性ホルモンが結びつくのを阻害したりする薬です。女性ホルモンの分泌を減らす薬には「LH-RHアゴニスト製剤」と「アロマターゼ阻害薬」があり、がん細胞が女性ホルモンを取り込むのを阻害する薬には「抗エストロゲン薬」があります。薬によって注射または内服によって投与されます。体内でのエストロゲンのつくられ方が閉経前と閉経後では異なるため、それぞれに合った薬剤が使われます。


ホルモン療法薬の副作用としては、ホットフラッシュ(ほてり)、性器出血、骨密度低下のほか、イライラするなどの更年期症状が出ることがあります。ホルモン療法は手術後5年間、10年間と比較的長期間行うことを勧められますが、患者さん1人1人について再発予防のメリットと副作用などのデメリットのバランスを見て、総合的に判断されます。

※1:ホルモン受容体…細胞の中にあるもので、ホルモンの情報を認識し、その情報を細胞の核に届ける役割をもっています。


分子標的薬

がん細胞の増殖に関わるタンパク質や免疫に関わるタンパク質など、がん細胞に特有の分子を標的にして、がんを攻撃するための薬です。多くの場合、他の細胞障害性抗がん薬と組み合わせて使われ、定期的に注射によって投与されます。分子標的薬はがん細胞だけをピンポイントで攻撃するため、大きな副作用が出ないことが期待されていましたが、実際には悪寒や下痢など、抗がん薬とは違った副作用が報告されています。デメリットとしては他の薬物療法に比べて費用が高額であることが挙げられます。

※医療費を補助する国の制度について詳しくは「高額療養費制度」を参照してください


細胞障害性抗がん薬

増殖の仕組みの一部を阻害することでがん細胞を攻撃する、いわゆる抗がん剤。薬によって作用が異なるため複数の薬を組み合わせて使います。がんの大きさや転移の状況などにより、他の薬や放射線治療と合わせて使うこともあります。点滴で投与されますが、今は通院治療が一般的です。

がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えてしまうため、さまざまな副作用が起こります。例えば肝機能・腎機能の低下や吐き気、脱毛などが報告されています。

しかし、最近では副作用予防のための薬も次々に開発されていて、特につらい吐き気や嘔吐については予防できるケースが増えてきています。抗がん剤の種類や量によっては将来不妊になる薬剤もありますので、妊娠希望がある患者さんはあらかじめ妊孕性温存(女性は卵子や卵巣組織の保管、男性は精子の保管など)について主治医に相談しておく必要があります。

※副作用ついて詳しくは「各症状への対処」を参照してください

 


【参考文献】
国立がん研究センターウェブサイト「がん情報サービス」 
https://ganjoho.jp/public/index.html 
「国立がん研究センターの乳がんの本」(小学館) 
「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版」(日本乳癌学会編)
 

Hatch Healthcare K.K.

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