がんについて知る

がん診断後の過ごし方

AYA世代(15~39歳)のがん患者さんの進学、就職、仕事、結婚、妊娠

目次

  1. 自分ががんだとわかったら
  2. 就学世代の学校はどうする?
  3. 学校の友人やクラスメイトにどう伝えるか
  4. 治療中でも進学・受験は可能です
  5. 就職活動はどうする? 
  6. 恋人や結婚を考えている相手にどう伝えるか
  7. 妊娠と出産は可能?
  8. 仕事との両立はどうする?


自分ががんだとわかったら

AYA(アヤ)世代とは、Adolescent&Young Adultの省略形で、日本では15歳~39歳をAYA世代と定義しています。

将来のことを具体的に考え始めるのはまだこれから、という若い世代にとって、がんと診断されたら「なぜ自分が?」「なぜ今?」と大きなショックを受けると思います。落ち着いて考えましょうと言われても、それも難しいのではないでしょうか。友達のこと、親のこと、これからのこと、とても不安な気持ちでいっぱいだと思います。
まずは家族や医師など周囲の助けも借りて現状をしっかりと把握し、さまざまな情報を整理し、最善の治療法を着実に行うことを考えましょう。

不安な時の相談先もたくさんあります。身近な家族、看護師、医師はもちろんのこと、病院のソーシャルワーカー、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターは大きな助けになります。さらに「がんの子供を守る会(外部サイト)」、AYA世代の患者会(患者LINE(外部サイト) )やAYA世代専用の研究組織(一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会)では、同世代で同じ悩みを持つ人の声を聞くこともよいかもしれません。
  
また、国立がん研究センターが運営する下記のようなサイトもあるので、参考にしてください。  
AYA世代のがんとくらしサポート(外部サイト)

就学世代の学校はどうする?

中学、高校、大学などに通学している世代では、がんの治療を続けながら、学校生活が続けられるのか、進学はできるのか、あるいは就職できるのか不安に思うことでしょう。一人で悩まずに、家族、友達、教職員など学校の関係者、主治医、看護師、ソーシャルワーカーなど周りの人たちに助けてもらいながら、復学や進学に向けた準備を進めていきましょう。

そのためにはまず、治療計画を確認するとともに、自分の学校のイベントや受験の予定、自分の希望を主治医に伝え、何に参加できるのか、できないのかを考えておきましょう。例えば、「卒業式には参加したい」と伝えれば、主治医は可能な限りスケジュールを合わせて手術や治療の時期を考慮してくれるはずです。

治療計画がわかったら、それを元に学校と休学や復学、単位の取得方法などについて相談しましょう。
公立小学校と公立中学校の義務教育では、病欠で出席日数が足りなくとも校長の判断で進級や卒業が可能ですが、私立の場合には学校ごとに基準が異なりますので確認する必要があります。

一方、高校や大学では病欠期間が規定より長くなると、一般的に休学扱い(留年)となり、同じ学年をくり返すことになります。ただし、大学では学部、学科、あるいは担当教授によってはオンライン授業の出席数、考査やレポート提出によって一定の成績を収めれば単位を認めてくれる場合もありますので、相談してみるといいでしょう。

がんの種類や病状によっては、長期間の入院や短期の入院を繰り返すこともあり得ます。
その場合、小学校、中学校の児童・生徒に対しては病院内教育(院内学級)という制度があります。病院内に分教室が設置されているところと、その病院を担当する教員及び病弱教育支援員などが病院を訪問するところがあり、実施回数や実施時間は病院や自治体によっても異なりますが、病院内で授業を受けることができます。その際、学籍を、院内学級を担当する支援学校に異動させる(転校)手続きが必要(退院した際に元の学校に戻るのが基本)になります。

院内学級については、厚生労働省は高校生も対象としていますが、高校生のための院内学級を設けているところは一部の病院に限られているのが実情です。さらに、一度異動した生徒が、元の高校に復学を希望した場合、無条件で認められるケースより、転入試験など一定の条件で認められる事が多いようですが、これも学校によります。

高校は教育課程に必要な単位を履修することで進級・卒業が認められますので、どうすれば学業が継続できるのか、高校の教員や校長、病院のソーシャルワーカー、保護者も交えてよく相談しましょう。ICTなどを活用した、パソコンやタブレットによるオンライン授業などの取り組みも始まっています。
もし継続がどうしても難しいなら、一旦休学して、治療終了後に復学するか、通信制の高校に転校することも考えてみましょう。

復学後の学校生活で注意すべきことは、主治医によく確認しておきましょう。治療で体力が落ちていたり、治療継続中であれば副作用が起こることもあるでしょう。激しい運動は控えた方がよいとか、宿泊を伴う行事は注意が必要など、してもいいこと、控えなければならないことなどを文書にしてもらい、それをもとに学校側と話し合いをしてみましょう。

勉強の遅れや友人関係の悩みが出てくることもあると思います。ひとりで抱え込まず、保護者ともよく話し合ったり、教師やスクールカウンセラーを務める臨床心理士、患者会などに相談しましょう。

学校の友人やクラスメイトにどう伝えるか

がんにかかったことを、友人やクラスメイトなど周囲の人々に伝えるのか、伝えないのか。伝えるとしたらどう伝えのるか、どの範囲まで伝えるのか。患者さん一人ひとりの状況にもよりますから、どちらが正解ということは言えません。

AYA世代の患者さんの友人にとってがんという病気はまだまだ馴染みがないため、理解してもらうことが難しいこともあるでしょう。そういういう意味では、がんであることをできるだけ周囲に伝えないということも、一つの考え方です。

その一方で、がんであると伝えることで、「あなたをサポートしてくれる人たち」が増える、ということも、忘れないでください。あなたに対して「力になってあげたい」と思っている友だちや知人が数多く存在しています。

もし長期間の休学が必要だったり、治療の副作用で容姿が変わったりすることがあった場合は、がんであることを完全に隠し通すのはなかなか難しいことがあるかもしれません。誰に、どこまで、どのタイミングで話すかについて、家族にも相談し、自分自身でもよく考えた上で決めていきましょう。クラスメイトにどのように伝えるかは担任教師と事前によく話し合うことも大切です。

治療中でも進学・受験は可能です

中学生や高校生は、タイミングによっては治療中に進学期を迎え、受験の時期にさしかかる場合もあります。
高校を受験する場合には、担当医に相談し、学校での支援が必要になるのか、もし必要な場合は具体的にどんな支援が必要なのかを整理し、その支援が普通の高校で受けられるのか、教育上特別な支援を必要とする生徒が通う特別支援学級に進学する方がよいのかを考えることも必要かもしれません。

さらに、中学校の担任とも相談しながら、事前に受験する高校に連絡し、受験できるかどうか、受験時にはどのようなことに気を付ける必要があるかを確認しましょう。該当する人は、受験票の写真はウィッグ着用のものでも構わないか、試験や面接の際もウィッグ着用が認められるかなども聞いておくといいでしょう。その際に、高校側から受験時の配慮について説明があったり、配慮申請の書類提出や面談などが求められたりする場合もあります。

大学受験の大学入学共通テストでは、治療によって何らかの健康問題が生じた場合、「受験上の配慮(視覚不自由、聴覚不自由、肢体不自由などに対する配慮)」を受けることができます。詳細は独立行政法人大学入試センターのウェブサイト「共通テストQ&A」の項から確認できます。
私立大学でも、これに準じた配慮を受けることができますので、事前に確認しておくとよいでしょう。

塾や受験予備校なども最近はオンラインでの授業が増えているため、パソコンやタブレットなどがあれば、病室でも受講することが可能です。受験勉強にあたっては、そのような手段も検討してみましょう。
大切なのはあきらめることなく、一歩一歩学習を進めていくことです。

なお、大学受験のためには、高校を卒業しなくても受験資格を得られる「高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定=大検)」がありますので、場合によってはこちらも選択肢の一つになるかもしれません。

就職活動はどうする? 

AYA世代の中でも新規に就労を考えている人は、就職のことが気になるはずです。現在治療中の人も治療が終わってからかなり時間が経過した人も、就職についての考え方も興味があることも違うでしょう。その際には、現在の体調や経過観察、治療のことなども考慮に入れる必要があるかもしれません。

仕事は、経済的な理由だけでなく、生きがいや楽しみでもあります。じっくりと時間を取って考えましょう。自分だけではわからないこともありますから、家族や先生、信頼できる友だちに相談してみてもいいでしょう。

仕事を決めるにあたっては、現在の体調と、それが仕事にどのように影響するかを理解することも大切です。自分の病気の現状と就業時に気をつけたいことについては、担当医に確認しておきましょう。具体的に、国内出張・海外出張、残業や交替制勤務、立ち仕事や力仕事、営業などの仕事をすることが可能かどうかについても聞いておくことをお勧めします。

それをもとに、自分が希望する業界や職種などで働いた時の身体への負荷について情報を集めましょう。就職活動の早い段階で就職支援課(キャリアセンター)に相談したり、目当ての会社のインターンシップに参加してみてはいかがでしょうか。

実際の就職活動の際に自分の病気について伝えるか・伝えないかは、とても難しい悩みどころです。自分の病状や体調、通院の頻度、日常生活で不便なことなどを整理し、それらに対して就職後に配慮が必要かどうかで判断も変わってきます。体調や病状もさまざまであり、企業側も対応はケース・バイ・ケースなので、よく考える必要があります。

悩んだ時には、病院のソーシャルワーカーや学内の就職支援課(キャリアセンター)、地域の若者向け就職相談の窓口に相談してみましょう。

何よりも大切なことは、あなたがなぜその企業を選んだのか、なぜその業種や業界を選んだのか、就職の基本をもう一度振り返り、しっかり伝えることが第一なことを忘れないでほしいです。

また、厚生労働省が長期療養者就職支援事業(がん患者等就職支援対策事業)として、ハローワークに設置した就職支援ナビゲーターに相談してみるのもお勧めです。この長期療養者就職支援事業では、就職支援ナビゲーターを病院に派遣している場合もあります。詳しくは、厚生労働省 長期療養者就職支援事業(がん患者等就職支援対策事業)(外部サイト)を参照してください。

また、患者会などでは、人事担当者など企業側の目線で助言をもらうこともできますので、相談をしてみてください。
就労セカンドオピニオン ~電話で相談・ほっとコール~(外部サイト)
サバイバーシップ・ラウンジ(外部サイト) 

また、患者さんの就職体験談(外部サイト)などもありますので、ご覧ください

恋人や結婚を考えている相手にどう伝えるか

AYA世代では、恋人や結婚を考えている相手がいることも多いと思います。その相手にいつ、どのように伝えるかは本人にとっては大きな問題です。相手との関係にもよりますし、あなたの心の準備にもよります。相手に「病気のことも含めて、自分のすべてを理解してもらいたい」と思うならば、きちんと説明し、一緒に考えてみてはいかがでしょうか。

また、結婚ということを考えた時、もしかしたら相手の家族や親戚との関係で、あなたががんを経験したことで困惑するようなことが起こるかもしれません。このあと説明する「妊よう性(妊娠のしやすさ)」などの問題も起こります。こうした問題についてもお互いに考え、話し合うことが大切だと思います。

誰にでも当てはまる正解はありませんが、悩んだ時は、患者会の体験談なども参考になるでしょう。

妊娠と出産は可能?

妊よう性とは、妊娠のしやすさ、妊娠するための力のことを言います。がんの種類や治療によっては、男女ともにこの妊よう性が損なわれ、妊娠しにくくなったり、子供を作る機能が低下してしまう場合があります。

具体的には、男性の場合、精子を作ることができなくなったり、射精ができなくなったりすること、性欲の低下などの症状が現れ、女性の場合は、卵巣や子宮を切除したり卵子の数が減り妊娠することが難しくなったり、流産、早産しやすくなるなどの症状が起きることが知られています。

妊娠や出産について、まだまだ自分のこととして考えられないという患者さんも多いでしょう。そんな世代の人が、治療と同時に、将来のことを考えて様々な決断をしなければならないのはかなり大変なことです。治療を開始する前に、主治医や産婦人科医、生殖医療専門医から妊よう性に関する正確な情報を得ることが重要なのはいうまでもありませんが、家族や病院のカウンセラーともよく相談しましょう。

妊よう性を保つ治療方法を選択できる場合もありますし、場合によっては「妊よう性温存」として、精子や卵子を凍結保存する方法もあります。2021年4月からは小児・若年世代を対象に、卵子や精子、受精卵や卵巣組織の凍結保存に国から助成金が出る予定です。また自治体によって、独自の助成を設けているところもあるので確認しましょう。

がんの診断を受けてつらい気持ちの時に、将来子どもを持つかどうかについてまでは考えられないかもしれません。また、病気の種類や病状によっては、がんの治療を遅らせることができない場合もあるかもしれません。それでも、できる限り説明を聞く時間を取ることをお勧めします。

具体的な妊よう性を保つ方法や相談窓口などについては、以下のウェブサイトを参考にしてください。
国立がん研究センター がん情報サービス 妊よう性(外部サイト)

仕事との両立はどうする?

AYA世代の中で仕事を持つ人は、仕事への影響も気になるところでしょう。仕事はこのままのペースで続けられるのか、休職した方が良いのか、あるいは退職しなければならないのか。休職や退職によって収入が減ったら、生活はどうなるのか……。心配はつきません。

がんと仕事については、
がんの治療と仕事との両立のために何をすればいい?
がん治療のための上手な休みの取り方は? 知っておきたい会社の制度
がん治療で長期間仕事を休むとき、知っておきたい「傷病手当金」のこと
がん患者さんが復職や就職をする前に、確認しておきたいこと
がん治療で生活に困ったとき、支えてくれる公的制度
がんにかかったら「障害年金」「老齢年金」「国民年金」もチェックしよう
などの記事も参照してください。


その上で、体調やこれからの治療計画も盛り込みながら自分の「キャリアプラン」を作ってみることをお勧めします。「キャリアプラン」とは、あなたが思い描く仕事上の理想を実現するために、現時点から短期・中期・長期的にどのようなスキル・職務経験が必要なのかについて考え、必要なスキルや経験を段階的に獲得できるように現実的な計画を立てることです。
AYA世代は、仕事の上でもこれからまだまだ活躍できる世代。治療計画と合わせて、どのようなスキルを身につけ、キャリアを積み重ねていけばよいか、考えてみるといいでしょう。


【参考文献】
一般社団法人 AYA がんの医療と支援のあり方研究会(外部サイト)
AYA世代のがんとくらしサポート(外部サイト)
AYA世代のがんー大阪国際がんセンター(外部サイト)
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【参考サイト】
AYA Life(あやライフ)(外部サイト) 
AYA世代でがんになった方の体験談や、座談会、そして患者さんと一緒にがんと闘う医療者からのアドバイスを掲載しています。
がんに関わる不安やとまどい、怒り、ストレスなど、少しでも軽減できる場所を目指しています。

【関連サイトのご紹介】
ぼくたちのサバイバーシップ Around20(外部サイト)
本冊子は15 歳~ 25 歳の「Around 20」世代でがんを経験した方々の協力で作成されました。がんと診断された同年代の皆さんにむけた、少し先を歩む先輩たちからのリアルな声とメッセージが掲載されています。
皆さんが病気や治療のことを勉強し、生活や将来のことを考える際の一助にしてください。

・総合監修:堀部 敬三 先生/清水 千佳子 先生
・企画・制作:キャンサー・ソリューションズ株式会社

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監修者
桜井 なおみ
一般社団法人CSRプロジェクト 代表理事 キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 技術士(建設部門)、社会福祉士、精神保健福祉士、産業カウンセラー

大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にてまちづくりや環境教育などの業務に従事。2004年、乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がんを含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。