前立腺がん手術後の多くの人に起こる尿失禁
排尿しようと思っていないときに尿がもれ出してしまう尿失禁(にょうしっきん)。前立腺がんの手術(外科治療)を受けた場合、ほぼ100%の人に尿失禁(尿もれ)が起きます。ただし、ずっと続くわけではなく、大半はいずれ排尿をコントロールできるようになります。
尿失禁を改善するには、「骨盤底筋体操」によるリハビリテーション(前立腺がん治療後の療養生活と経過観察)が効果的です。また、尿もれ用パッドや紙おむつなど、さまざまな尿失禁用の製品が市販されているので、「尿もれは起きるもの」という前提で、あらかじめ用意をしておくのもいいでしょう。もれる回数や量は徐々に減っていくので、そうした状態にあわせて上手に活用しましょう。
尿失禁の不快感が続いたり、改善されない場合は、薬が処方されることもあります。また、手動で排尿を制御できる「人工尿道括約筋」を挿入する手術を行うという選択肢もあります。
術後しばらくは、尿もれを予防するために、重いものを持ち上げるといった、お腹に強い力が入るような動作は避けた方がいいでしょう。また、パッドを積極的に使うなどの工夫をすれば、ゴルフやテニスなどのスポーツを楽しむこともできます。
性機能障害は起こる?
男性の性機能障害(せいきのうしょうがい)には、勃起(ぼっき)障害と射精(しゃせい)障害があります。前立腺がんの治療後には、このほか性欲減退が起こることもあります。男性の性機能は年齢とともに低下していきますが、個人差も大きく、感じ方や考え方もさまざまです。監視療法以外の治療法では、なんらかの影響があります。
・手術(外科治療)を受けた場合
手術を受ければ精嚢(せいのう)と前立腺を摘出することになるので、射精は起きなくなります(射精障害)。また、手術直後はほとんどの人に勃起障害が起きます。勃起にかかわる神経を残すことができた場合であれば、術後1年ほどである程度の回復は期待できます。
・放射線治療を受けた場合
治療直後はあまり影響がありませんが、しだいに多くの人に勃起障害が生じます。ただし、程度は軽度のことが多く、治療により回復が期待できます。精嚢や前立腺は残るので、射精障害は起きにくいのですが、精液量が減少する可能性があります。
・内分泌療法(ホルモン療法)を受けた場合
男性ホルモンの分泌が抑えられると性欲自体が低下し、勃起も起きにくくなります。ただし、使用する薬によって影響は異なり、治療効果との兼ね合いもあるので、担当医とよく相談してください。
・手術後の妊娠
手術で射精障害が生じても、まったく妊娠不可能なわけではありません。事前に精子を採取し配偶者間で人工授精を行う、もしくは手術後でも精巣(せいそう)内から精子を採取し配偶者間で体外受精をするなどの方法があります。
勃起障害の治療はできる?
勃起しない状態が続くと、回復しにくくなります。からだの状態が落ち着いたら、なるべく早めに通常の性生活を試みてみましょう。いつ頃から試してよいかはからだの具合にもよるので、担当医に率直に尋ねてみるといいでしょう。
神経が残っていれば、薬物療法が有効なこともあります。日本で認可されているのは、シルデナフィル(バイアグラ)、バルデナフィル(レビドラ)、タダラフィル(シアリス)の3種類です。
これらの薬の副作用には頭痛、ほてりなどがありますがいずれも軽度で一過性です。ニトログリセリンなどを服用している方は内服することができません。インターネットなどで偽の薬が多く出回っており、大変注意が必要です。必ず、担当医に相談して処方をしてもらいましょう。
内分泌療法(ホルモン療法)による転倒・骨折を防ぐには
内分泌療法(ホルモン療法)で男性ホルモンの分泌・作用が抑制されると、筋肉が減り、骨密度が低下しやすくなります。筋力の衰えは転倒につながりやすく、弱くなった骨は軽い衝撃で折れたりしやすくなります。
筋肉は使わなければどんどん減ってしまうので、体操やウォーキングなど、無理のない運動習慣をつけるといいでしょう。
また、骨をつくる材料となるカルシウムを不足させないことが大切です。ただし、サプリメントなどでは、とりすぎの弊害も指摘されています。魚介類や乳製品など、食事で十分にとることを心掛けましょう。
内分泌療法を始める前や、治療中も1~2年に1度、骨密度を測定し、骨の状態を把握しておくといいでしょう。骨密度の低下が目立つようであれば、薬物療法が検討されます。
【参考文献】
「前立腺がん より良い選択をするための完全ガイド」(講談社)
国立がん研究センター がん情報サービス 前立腺がん(外部サイト)
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